3月11日のマーラー

遅ればせながら拝見させていただきました。

http://pid.nhk.or.jp/pid04/ProgramIntro/Show.do?pkey=001-20120310-21-00495&pf=p

あの日埼玉からの車に揺られている間にこんなことがあったなんて、知りませんでした。あの日のすみだトリフォニーホール―1800人の客席に来られた観客は105人、壇上には94人のオケメンバー。それぞれの思いを胸に、マーラー交響曲第5番が演奏されました。あの状況、東京を帰宅難民が埋め尽くしている状況で、不謹慎ではないかという批判の声をあびつつも開催を決行した新日本フィル―それはまさに大英断だったと思います。

途中何度も余震が襲いましたが、皆がここで起こっている奇跡の夜を見届けようとしていました。この時ほど音楽が必要とされていた瞬間があったでしょうか。指揮者、オケメンバー、観客、皆があの時音楽を必要としていた、そしてオケがその必要とされていた音楽を奏でたのです。

何人かのメンバーはマーラーの調べに没頭することで恐怖や悲しみを払しょくしようとし、また何人かのメンバーはその音楽の中に希望を見出そうとしました。一人一人のメンバーの音が複雑ないくつもの感情を運んできます。悲しみ、恐怖、絶望、希望、祈り―いつも聞きなれている第4楽章のアダージェットが全く違うものに聞こえました。確かにいつもと同じ旋律なのに、そしてテレビごしで見ているだけなのに、不思議とボロボロ涙が出てきました。音楽をするってこういうことなんだ、と。その時に会場にいた観客の一人の方がこうおっしゃっていました、「今夜ここで起こっている音楽を私たちが見届けなければいけない」と。後にも先にもあんなマーラーを聞くことはもう2度とないだろうと思います。まさに魂を揺さぶられた演奏でした。